「ホメオパシー」とは? 「水を染ませた砂糖玉であらゆる病気を治す」という妄想

ホメオパシー(homeopathy)」という代替医療があります。代替と付きますが、科学的な医療の代わりにはなりません。

そもそもホメオパシーとはどのようなものなのでしょうか?

『と学会』の運営委員にして、しばしば日本最強のデバンカーといわれる皆神龍太郎先生にお話を伺いました。

デバンカー(debunker)とはオカルトや超常現象などを科学的、懐疑的に解明しようとする人のことです

「水を染みこませた砂糖玉」でどんな病気も治す?

――そもそもホメオパシーって何ですか?

皆神先生 200年近く前の話になりますが、ドイツ人医師のザームエル・ハーネマン(1755-1843年)という人が創始しました。

ざっくり言えば、

レメディー」と呼ぶ「水」(後述)を染みこませた砂糖玉であらゆる病気を治療できる

というのです。

――なぜ砂糖玉で病気が治るんですか?

皆神先生 ハーネマンの考えた理屈は「類似したものは類似したものを治す」というものでした。自分でキニーネ(マラリアの治療薬)を飲んでみたところ、マラリアそっくりの症状が出たそうです。

――はあ……。

皆神先生 そこで、その症状を起こすような物質を摂取することが、その症状を治すことになる、という法則に気付いたというんですけどね。

――ちょっと待ってください。症状を起こす物質を摂取したら、治すどころか症状が増進するのではありませんか?

皆神先生 物質の薄め方が半端ないんですよ。その物質を水に溶かし、ひたすら希釈していって、それを砂糖玉に染みこませると治療薬(レメディー)になるというのです。

――毒を希釈して使うという考え方は、なんとなく種痘に似てるような……。

皆神先生 希釈が種痘なんてレベルでないんです。ハーネマンによれば、限りなく薄めたほうが治癒力があるそうで、材料はさまざまですが、植物・動物の組織・鉱物などを100倍に希釈、これをまた十数回から30回程度繰り返します。

――すごく薄めますね。

皆神先生 仮に30回希釈作業をしたら、10の60乗倍薄めたことになりますので、元の物質なんか1分子も残ってませんよ。

1兆を5回掛けた数字分の1ですよ。だから、これは普通にいえば単なる水です。レメディーというのは、水を染みこませた砂糖玉に過ぎないのです

――それを飲んであらゆる病気が治るんですか?

皆神先生 何もしない程度には効くかもしれませんね。多くの医学論文では「ホメオパシーにはプラセボ効果以上のものはない」とされています。

砂糖玉に水ですからもちろん治療効果はありません

しかし、砂糖玉と水で病気が悪化するということもまたほぼないわけです。

問題なのは、治療効果のないホメオパシーを信じてしまい、科学的な標準医療を受けない人が出てしまうことです。

例えば、がんで苦しんでいる患者さんが、うっかりホメオパシーを信じて科学的な一般治療を排除してしまうと、その間に病状が進行し、手遅れになってしまう可能性があるわけです。

――そうなるとお気の毒ですね。

皆神先生 実際にそのような事件が起こっているのです。

通常の治療を拒否し、ホメオパシーでの治療を選んだ癌の患者さんが、病院に運びこまれたときにはもう手遅れだった、とかですね。

2010年5月には「ホメオパシーが効かず乳児が死亡した」として損害賠償請求が山口地裁に起こされました。

これは自宅出産したお母さんが、助産師を訴えたものです。最終的には和解したようですが、この助産師は赤ちゃんに必要とされているビタミンKを投与せず、代わりにレメディーを与えていたというのです。

「ワラにもすがりたい人」の気持ちにつけこむ

――伺うほどに科学的な根拠のない話ですが、なぜ「砂糖玉でどんな病気も治る」といった話を信じる人がいるのでしょうか?

皆神先生 科学的とされる医学でも、全ての病気が治せるわけじゃないですから。

本当に困っている、溺れる人なら藁をもつかみたくなることでしょう。でも、そういう需要があるところには、えらく高い値段で藁一本を売るような人が現れてくるもんなんです。

――ホメオパシーが科学的根拠のあるものではない、という説明はもっと一般に認知されたほうがいいように思うのですが?

皆神先生 上記のような事件がありましたので、日本でも2010年(平成22年)8月24日、日本の学者の総本山とも言える『日本学術会議』の金澤一郎会長が「『ホメオパシー』についての会長談話」を公表しました。その最後は、

「(前略)最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。

それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います」

と結ばれています。これを受けてその翌日には『日本医学会』も、

「日本医師会および日本医学会はその内容に全面的に賛成します」

と発表しました。日本でも徐々にですが、ホメオパシーへの「正しい理解」が進んできているとは思います。

――ありがとうございました。

というわけで、「ホメオパシー」とは、200年近く前の医師が考えた「水を染みこませた砂糖玉でどんな病気も治る」という妄想のような話なのです。科学的根拠は一切ありません。

皆さんもうっかり信じたりしないよう十分に注意してください。

⇒引用元:日本学術会議「『ホメオパシー』についての会長談話」

⇒引用元:日本医学会「『ホメオパシー』への対応について」

皆神龍太郎

疑似科学ウォッチャー。『と学会』運営委員。ASIOS会員。しばしば日本最強のデバンカーといわれる存在。『UFO学入門 伝説と真相』(楽工社)、『あなたの知らない都市伝説の真実:だまされるな! あのウワサの真相はこれだ! 』(学研パブリッシング)など著書多数。

(高橋モータース@dcp)

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