奇跡の毛色「白毛馬」とは?


上半期の競馬シーンを盛り上げたのが、白毛馬の「ソダシ」です。昨年末には、白毛の馬として世界で初めてGI級レースを勝利し、今年も牝馬クラシックのひとつである桜花賞を勝利。これまで白毛馬はマスコット的な扱いが多かったのですが、ついに大物が登場したと大いに盛り上がりました。今回は、このソダシをはじめとする、白毛馬の歴史をひも解きます。

白毛馬が生まれる確率は非常に低い

白毛馬というのは、「全身の毛のほとんどが白色の馬」を指します。肌の色がピンクであることも特徴。毛の少ない口回りなどで、ほんのりピンク色の皮膚を見ることができます。

白毛になるのは、生まれつきメラニン細胞の数が少ないことが原因だと分かっています。メラニン細胞が少ないために、毛に色がつかず、その部分が白い斑になってしまうのです。毛の一部分が白い斑なったいる馬は駁毛(ぶち毛)といいますが、この白い斑が体の全身に広がったのが白毛馬です。

白毛は優性白遺伝子、またはサビノ遺伝子を持つ馬から生まれた事例が報告されています。しかし、出現率が少なく、また突然変異でも生まれることもあるため、サラブレッドにおける白毛の発現は十分解明されていません。そのため、「奇跡の毛色」と呼ばれているのです。

記録上初めて登場した白毛馬は?

世界で初めて「白毛馬」が記録されたのは1896年。アメリカで生まれた馬で、その毛色から「White Cross」と名付けられたそうです。この馬は父が栗毛、母が青鹿毛のため、突然変異で生まれたとされています。以降も、海外では全部で30頭以上の白毛が突然変異で誕生し、現在までに白毛の遺伝子を残しています。

日本で最初の白毛競走馬は、1979年に突然変異で生まれた「ハクタイユー」です。父ロングエースは鹿毛、母ホマレブルは栗毛でした。当時の日本競馬はまだ白毛の規定がなかったため、急きょ「白毛」というカテゴリーを設けたといいます。つまり、ハクタイユーはJRA登録の白毛馬第1号ということです。

ハクタイユーは残念ながら4戦0勝という成績で引退しますが、貴重な白毛馬ということで種牡馬として繁殖入り。2001年までに、ハクタイユーの遺伝子を持つ白毛馬が全部で11頭誕生しました。特に注目を集めたのは、1993年誕生のミサワボタン。母カミノホワイトも1983年に突然変異で誕生した白毛馬で、白毛馬同士の交配という非常に珍しいケースでした。現在までに、白毛馬同士の交配で生まれた白毛馬はミサワボタンただ一頭だけです。

一頭の白毛馬が歴史を変える

白毛馬は他の毛色と比べて数が非常に少ないため、「強い馬」が登場する確率もそれだけ低くなります。実際、ハクタイユーの遺伝子を持つ白毛馬は全て中央競馬では勝利することができませんでした。そのため、白毛馬はながらくマスコット的な存在として扱われます。

しかし、1996年に生まれた一頭の白毛馬が、「白毛馬の歴史」を大きく動かします。その名は「シラユキヒメ」。父は日本の競馬を変えた大種牡馬サンデーサイレンス、母は海外から輸入されたウェイブウインドという馬で、サンデーサイレンス初の白毛馬ということで大きな注目を集めました。残念ながらシラユキヒメは未勝利でターフを去りますが、その子供の白毛馬が目覚ましい活躍を見せることになります。

まずはシラユキヒメが2004年に生んだ「ホワイトベッセル」(父クロフネ)。2007年にデビューした本馬は、2戦目で初勝利し、記念すべき「白毛馬初の中央競馬勝利」を飾りました。その後は17戦して3勝で引退しましたが、ホワイトベッセルの妹ユキチャン(父クロフネ)は17戦5勝と兄以上に活躍。関東オークス、クイーン賞、TCK女王盃といった地方重賞も勝利しました。他にも、2009年産のマシュマロ(父クロフネ)は、白毛馬として初めて新馬戦で勝利。シラユキヒメの子供が白毛馬の歴史を次々に塗り替えました。

現役3歳世代をけん引する白毛馬

目立った活躍を見せたシラユキヒメの子供たちですが、その子供、つまりシラユキヒメの孫がさらなる快挙を打ち立てます。

白毛馬として初めて新馬戦で勝利したマシュマロは、2016年にダービー馬キングカメハメハを父とするハヤヤッコを生みます。この馬が2019年にGIIIのレパードステークスを勝利。白毛馬としては「世界で初めての平地国際グレードレース勝利」となりました。

また、シラユキヒメは2012年にブチコという、鹿毛ブチの白毛馬を生みます。この馬自体は16戦4勝の戦績で繁殖入りしますが、2018年に父クロフネの牝馬を出産。これが冒頭でも紹介した「ソダシ」です。

ソダシは、2020年7月12日に函館競馬場でデビュー。新馬戦を2馬身半差で完勝(白毛馬の芝の新馬戦勝利は史上初)すると、続く札幌2歳ステークス(GIII)も力強い伸び脚で勝利します。白毛馬では史上初の芝重賞競走の勝利という快挙を達成します。この勝利により世代トップクラスの評価を受けることになったソダシは、10月のアルテミスステークス(GIII)もわずかの差ながら勝利。ついにGIの大舞台へと駒を進めます。

迎えた12月13日、2歳牝馬の頂点を決めるGI、阪神ジュベナイルフィリーズにソダシは出走します。1番人気という高い支持を集めたソダシは、ゴール直前で他の馬にリードを許すも、驚異的な根性で差し替えして勝利。世界初となる、白毛馬のGI優勝を成し遂げました。

明けて3歳になってもその勢いは衰えず、3歳初戦となった牝馬クラシック第一弾「桜花賞」をコースレコード更新という圧巻の走りで制します。白毛馬がクラシック競走を勝つのも当然ながら史上初。残念ながら牝馬二冠を狙ったオークスで初黒星を喫しますが、白毛馬の歴史を大きく変えた一頭といえるでしょう。

非常に珍しい白毛馬ですが、これまではなかなか活躍する馬が登場しませんでした。しかし、シラユキヒメの登場によって、日本競馬の「白毛馬の歴史」が大きく変わったのです。ソダシも牝馬ですから、この先繁殖入りした際は、どんな白毛のスターホースを生んでくれるのか楽しみですね。

(中田ボンベ@dcp)

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