「こっくりさん」とは? いつからある?

こっくりさん」をご存じでしょうか。昭和のオカルトブームを経験した人ならご存じですね。小学生のころにがクラスではやったりしませんでしたか?

いろんなバリエーションがありますが、「こっくりさん」とは以下のようなものです。

紙に「はい」「いいえ」「50音」「数字」などを書き、10円玉の上にみんなでひとさし指を置く。

占いたいことを言うと、10円玉が勝手に動く……のです。

さて、このこっくりさんはいつからあるのでしょうか?

今回は、こっくりさんの起源やその仕組みについて、しばしば日本最強のデバンカー※1といわれる疑似科学ウォッチャー・皆神龍太郎先生にお話を伺いました。

「こっくりさん」は日本のものではない! 明治時代に西洋から輸入された!

――日本の「こっくりさん」はいつぐらいからあるのですか?

皆神先生 1884年(明治17年)に伊豆下田に上陸した、そうです。

実は、皆さんが知っているこっくりさんは西洋から輸入されたものなのです。立命館大学の安斎教授が『こっくりさんはなぜ当たるのか』という著作の中で、

日本で「こっくりさん占い」が初めて大流行したのは、一八八五(明治一八)年から一八八七(明治二〇)年にかけてのことでした。

と述べていらっしゃいます。

――日本古来のものではないのですね?

皆神先生 はい。19世紀末には西洋諸国でオカルトブームがありました。

死者の霊を呼び出す降霊会が行われたり、心霊写真を撮影するのが流行したりしました。

これが日本にも伝わったわけです。こっくりさんは、降霊術で行われる「テーブル・ターニング※2や占いの「ウィジャ盤※3が原型とされています。


↑「ウィジャ盤」とはこのようなものです

――「こっくりさん」はキツネ、稲荷信仰が関係していると思っていました。

皆神先生 それが違うんですよ(笑)。そう思っている人は多いかもしれませんが、実は日本に上陸して大流行した当時は「狐狗狸(こくり)」と書きました。

つまり、

・狐(キツネ)
・狗(イヌ)
・狸(タヌキ)

ですから、何かよく分からないものなんです。

妖怪博士と呼ばれる井上圓了の1887年(明治20年)の著作『妖怪玄談 狐狗狸の事』でも、キツネ・イヌ・タヌキの表記になっています。

ちなみに、この著作の中にあるこっくりさんの作法は皆さんが知っているものとはずいぶん違いますよ。

――小学生のころにクラスではやったのは、紙の上に「はい」「いいえ」「50音の文字列」を書き、10円玉の上に参加者が指を置いて……というものでした。

皆神先生 明治時代の「狐狗狸」は、竹※4を三本やぐらのように組んで、その上におひつの蓋を載せました。

これはまさに「テーブル」です。

明治時代の一般家庭には西洋式のテーブルが普及してはいませんでしたからね。3人が三方に向かい合って座り、この蓋を軽く手で押さえます。片手でも両手でも構いません。

この状態でいろんな質問をすると、おひつの蓋が傾いたり、回ったりなどいろんなリアクションが起こります

この反応によって占うのです。ちなみに、蓋がこっくり、こっくりと傾く様からこっくりさんと名付けられたといわれています。

――なんだか私たちが知っているこっくりさんとずいぶん違いますね。

皆神先生 そうでしょう(笑)。

これはまるっきり「テーブル・ターニング」です。日本に輸入された直後には、西洋のテーブル・ターニングそのものだったことが分かります。

※1
「デバンカー」とは、オカルトや超常現象を懐疑的、科学的に調査する人のことです。

※2
「テーブル・ターニング」は降霊会などで行われた一種の占い。日本語では「机転術」と訳されます。丸テーブルに集ったメンバーが手を置き、降霊者(巫女的な役割をする人)が神様(あるいは心霊)を呼び出す呪文を唱えます。神様(あるいは心霊)が降りてきたところで質問をします。そのときに起こる反応によって占いの結果を得るのです。あらかじめイエスなら「テーブルの脚で床を一回叩く」、ノーなら「2回叩く」などの回答の方法を神様(あるいは心霊)と取り決めておくといったやり方もあります。

※3

「ウィジャ盤」は「YES」「NO」「アルファベット」「数字」などが描かれたボードで、降霊術や心霊術に使われます。この上に指示板(矢印のようなものです)を置いて、その上に参加者が指を載せます。質問をすると指示板が勝手に動き、回答が得られるというわけです。ちなみに「ウィジャ」は、フランス語の「Oui(ウイ)」(「はい」の意味)とドイツ語の「Ja(ヤー)」(「はい」の意味)を合わせた造語です。

※4
生竹の長さ一尺四寸五分の竹をなるものを三本を作り……と書いてあるので、竹1本の長さは約43.9cmになります。

1970年代のオカルトブームで一気にメジャーに!

――「こっくりさん」は明治時代からあって、現在まで伝わってると。

皆神先生 その時々ではやりすたりはあったでしょうが、現在まで伝わっていますね。

特に昭和の1970-1980年代には大きなオカルトブームがあったので、その時代に少年少女だった人はこっくりさんを経験したのではないでしょうか?

オカルトブームの火付け役の一つといわれる、つのだじろう先生の漫画『うしろの百太郎』にもこっくりさんが登場します。


↑『うしろの百太郎』はつのだじろう先生の傑作オカルト漫画。昭和の子供たちを震え上がらせた

――確かに。そういえば『うしろの百太郎』のこっくり殺人事件というエピソードは、キツネの霊に憑依されて……みたいな話になっていましたね。

皆神先生 昭和のオカルトブームの際に大流行したためこっくりさんは多くの人に知られるようになりました。その後は、こっくりさんという明治っぽい名前ではなく、

・キューピッドさん/キューピッドさま
・エンジェルさん/エンジェルさま

といった名称で呼ばれたりしました。

キツネ・イヌ・タヌキではなく、時代の変遷に合わせて「天使」になったわけです(笑)。やってることはほとんど同じですが。

他にも「守護霊さま」「花子さん」「お富士さん」「星の王子さま」「キラキラガール」「パンダのなっちゃん」といった呼び方もあるそうです。

呼び出すものが違うわけですね。

――最近ではあまりこっくりさんもメジャーではないのでしょうか。

皆神先生 こういうのは経験した親から子どもへ、またその子どもへと情報が受け継がれていきますから、長く伝播するものなのですよ。

今はそれほど知られていなくてもどこかで爆発的なブームが起こるかもしれませんね。

2015年には「チャーリーゲーム」という、こっくりさんの変形のような占いが大流行しました。ただし、これは参加者が指示棒(多くの場合は鉛筆)に触れたりしません。

その点が伝統的なこっくりさんとは異なっていますね。

「こっくりさん」の仕組みとは!?

――こっくりさんの仕組みはどういうものだと考えられるのでしょうか? 参加者が意図しなくてもテーブルが動いたり、10円玉が動いたりするというのは……。科学的にそのメカニズムは解明されていますか?

皆神先生 はい。テーブル・ターニングについては、大流行した19世紀にすでに科学的な説明がされています

しかも解明を行ったのは、天才数学者ガウス(カール・フリードリヒ・ガウス)、天才化学者(物理学者)のファラデー(マイケル・ファラデー)ら、超一級の科学者でした。

――えっ! ガウスとファラデーってオカルト現象の解明まで行っていたのですか?

皆神先生 天才たちが解明に乗り出さないといけないくらいオカルトがはやっていたわけですよ(笑)。

ガウスは自ら実験を行ってテーブル・ターニングが考えるよりもずっと小さな力で行えることを証明しました。また、ファラデーは実験によって、テーブルが動いているのではなく、参加者の手が先に動いていることを証明しました。

つまり、人間の「こう動いてほしいという願望」が知覚に上らないほどの筋肉運動を促し、その結果「テーブルが動く」のだと結論付けたのです。

ファラデーは1853年にすでに『ザ・タイムズ』紙にその結果を発表しています。

日本では、先ほど挙げた井上圓了がこっくりさん占いの正体について実験と検証を行い、同様の結論に達しています。

こっくりさんでテーブルが動いたり、10円玉が動いたりするのは、参加者の「内面の要因」と「外的な要因」、言い換えれば「心理的な要因」と「物理的な要因」のかけ算による現象なのです

「こう動いてほしい」という心理が潜在的にあって(「予期意向」)、それと知覚に上らないで行われる筋肉の動き(「不覚筋動」)が結び付いて、テーブルや10円玉を動かすのです。

つまり、参加者が無自覚のうちに行っている「人間の仕業」です。

――19世紀中に結論が出ていたのですね。

皆神先生 ファラデーが新聞発表までしたのにオカルトブームが衰えたりはしませんでした(笑)。相変わらず降霊会は流行しましたし、それどころかテーブル・ターニングが日本に伝わって日本で「こっくりさん」として大流行したのです。

――うーん、面白いからでしょうか。

皆神先生 そうでしょうね(笑)。

オカルト、超常現象の界隈でよくあることですが、どれほど科学的に解明されているという証拠を挙げても、それを信じてもらえなければずっと不思議なままです。

人には面白いものを信じたがる習性がありますからね。

天才が言っても無駄だったというのは、「人は信じたいものを信じる」という言葉を証明しているようにも思えます。

「こっくりさん」が思わぬ害をもたらすことがある!


皆神先生
 ただし、こっくりさんは科学的に説明がつく現象なのですが、思わぬ害をもたらす可能性があるという点には注意しなければなりません。

これは面白いでは済みませんよ

かつてのオカルトブームの中、児童がこっくりさんを行って事件が発生しているのです。

例えば、1980年には大阪府の中学校でこっくりさんのお告げがあったとして、女生徒を棒きれや定規でリンチするという事件が起こっています。被害に遭った女生徒は全治2週間のけがを負い、自殺未遂をするというひどいものでした。

また、1989年には福岡県の中学校でクラス崩壊が起こるという事案が発生しています。こっくりさんがきっかけで3年生の生徒12人が放心状態になるなどしたため、学校は3年生240人全員を帰宅させるという措置を取っています。

――なぜ、そのようことが起こるのでしょうか?

皆神先生 そもそもは人間の無自覚な運動が起こすという科学的に説明がつく現象ですが、それを「何が超常的なもの」、例えば霊が、あるいは神様が起こしているなどと信じてしまうと、その考えに沿った行動を取ってしまうのです。

また、一人がそのような状態になると周りの人間がそれに感応してしまうことがあります。

人間には他人に共感する能力他人の気持ちを忖度する能力が備わっています。これが「超常現象を信じる」という気持ちをも伝播させるのです。

集団ヒステリーの一種と考えることもできますね。

信じること・信じる力には恐ろしいパワーがあって、しかもそれは伝播するのです

例えば、1983年にはクラブの部室で中学3年生がこっくりさんを行ったところ、見ていただけなのに「体が重くなった」という生徒、「地獄へおいで」という幻聴を聞いたという生徒がでたそうです。

これなども共感する能力・忖度する能力があるからです。

――そう考えると、こっくりさんには怖い面もありますね。

皆神先生 はい。何か超常的なものを呼び出してご託宣を受ける、という建付(たてつけ)ですから、それを安易に信じてしまうような人は注意すべきだと思います。

――ありがとうございました。

というわけで「こっくりさん」についてでしたが、いかがだったでしょうか。

こっくりさんが日本オリジナルのものではない、ことに驚かれたのではないでしょうか? こっくりさんの大本は、オカルトブームに湧いた19世紀の「テーブル・ターニング」。

これが明治時代に輸入されて大流行し、現在にまで伝わっているのです。

また大流行するときが来るかもしれませんね。ただし、皆神先生の指摘どおり、こっくりさんには怖い面もあります。安易に行うべきではないのかもしれません。

⇒引用元・参考文献:安斎育郎『こっくりさんはなぜ当たるのか』(株式会社水曜社)2004年7月28日初版第一刷発行,pp10-11,pp18-20,pp33-44

(高橋モータース@dcp)

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