日本では「血液型性格分析」は非常に人気がありますが、実はこれは日本だけの現象。外国人から見ると、なぜ日本人がそんなに血液型による分類が好きなのかよく分からないのです。
なぜ、日本では「血液型性格分析」に人気があり、一般的になっているのでしょうか?
「血液型性格分析」や「血液型占い」に何か科学的な根拠はあるのでしょうか。
「血液型による性格判断」で一般的にいわれること
血液型というと、「A型」「B型」「O型」「AB型」の4つに分類する「ABO式」が有名で、皆さんも自分の血液型がどれに当たるのか知っているでしょう。
血液型による性格判断では、一般に次のようにいわれます。
A型:真面目で融通が利かない
B型:明るい気分屋
O型:おおらかで頑固者
AB型:マイペースで合理的
このように周りの人から言われたり、本に書かれているのを見たりすると、なんとなく当たっているような気がするものですね。また、このような知識があると職場の同僚などの血液型を知ったとき「ああ、やっぱり!」なんて思ってしまうかもしれません。
多くの人が血液型による性格分類を信じるのは、「当たっていると思うこと」がしばしばあるためではないでしょうか。
日本で「血液型による性格判断」が一般的になったのは?
日本で「血液型による性格判断」が一般的になったのは、1927年(昭和2年)に、古川竹二教授(東京女子高等師範学校・現お茶の水女子大学)が発表した論文「血液型による気質の研究」が基といわれています※1。
1973年、能見正比古さんの『血液型人間学』が刊行され、これがベストセラーとなりました。
正比古さんの姉・幽香里さんは、東京女子高等師範学校に通う才女でしたので、古川教授の論文についても知っており、その影響で正比古さんも血液型と気質の「研究」を始めたそうです。
多くの人に読まれた能見さんの著作は、能見さん自身がテレビなどマスコミに登場して喧伝(けんでん)したこともあり、日本人に「血液型による性格分類」という考え方を広めるのに決定的な役割を果たしました。
ただし、能見さん自身は現在一般に広がっている「各血液型の性格は○○」といった、いわば固定化された性格分類を行ったわけではありません。
あくまでも「その血液型のグループに属する人には『そのような傾向』があるとするもので、血液型で性格が分かるのは1/4」という持論を持っていたのです。
血液型による性格分類は科学的根拠があるのか?
では、一般にいわれる「血液型による性格分類」には科学的根拠はあるのでしょうか? どこまであてになるのでしょうか?
『と学会』会員であり、ときに日本最強のデバンカー(超常現象やオカルトを懐疑的、科学的に検証する人のこと)といわれる皆神龍太郎先生にお話を伺いました。
――血液型によって人間の性格を分類することは可能なのでしょうか?
皆神先生 話としては面白いと思いますが眉唾ですね。
そもそも血液型というのは、ABO式だけではなくて「Rh式」「MN式」「P式」などなど、さまざまに分類可能なのです。
どうやって分類しているかというと、血液(正確には「血球」)にある抗原の種類によります。
例えば最も一般的なABO式血液型は、これは世界で初めて発見された血液型分類ですが、赤血球の表面にある「A/B抗原」に着目した分類方法です。
・A抗原がある:A型
・B抗原がある:B型
・A抗原とB抗原の両方がある:AB型
・A抗原とB抗原の両方がない:O型
というのがABO式による分類です。
――A・B・O・ABがそうやって決まるのは知りませんでした。
皆神先生 赤血球の表面には250種類を超える抗原があります。乱暴な言い方をすれば、それぞれに着目した250種の血液型分類ができるわけですし、赤血球の中にある抗原もありますから、それに着目すれば、また別の分類が可能です。
実際、血球に新たな抗原が発見されるたびに、それによる血液型の分類ができてきたという歴史があります。なぜそのような分類が重要かというと、抗原・抗体反応で血液が凝固することがあるのです。
たとえば「輸血」の際に血液凝固が起こったら大変ですね。そのようなことのないよう血液を分類できていないといけないというわけです。血液型の分類は医療と結びついているのです。
――血液型分類はたくさんあるのですね。
皆神先生 ですから、血液型の分類の一種にすぎない「ABO式」だけで本当に人間の性格まで分類できるかのか? 他の血液型による分類ではどうなるの?とか、なぜABO式の血液型分類だけが取り上げられるの?などの疑問に答えることはできないでしょう。
――では、日本で一般にいわれている「血液型による性格分類」「血液型占い」などは信用できるものでしょうか?
皆神先生 信用できないですね(笑)。あまり知られていないかもしれませんが、血液型性格分類については日本の心理学者による研究の蓄積が多くあり、そのほとんどで「血液型が人の性格に関係しているとは考えられない」という結果が出ていますから。
――そうなんですね。
皆神先生 血液型と性格の分類を結びつける説(血液型性格関連説)について知りたいのであれば、『血液型性格研究入門』※2という本が非常に参考になると思いますよ。
この著作は、これまで学者が行った血液型性格関連説についての検証研究※3を調べ、その上で、
「これらの研究では、血液型の差異が見られた項目もあるが、それは一部の項目での小さな差にすぎず、また、血液型性格関連説とは逆方向に差が見られた場合もある。全般的には血液型性格関連説で主張されているような各血液型の特徴は確認されていない、といえるだろう」
血液型性格研究入門 P.153より引用
と述べています。
海外では「血液型による性格の分類」がポピュラーではないので、日本ほど研究は行われていないのですが、それでも血液型と性格に何か有意な相関があったなんて話は聞きません。
――血液型が性格に与える影響は本当に全くないのでしょうか?
皆神先生 そこが科学者も悩ましいところで「全くない」とはなかなか言えないわけです。上記のように非常に多くの調査がなされて、その上で「科学的根拠は見られない」としているのですが、あくまで統計として処理した上での結果に過ぎないので、血液型と性格の間には何の関係も「全くない」と断言することは科学的には難しいわけです。
もしかしたら発見されていない何かの事実があるかもしれませんし、「ものすごく小さいけれども何らかの影響を及ぼしている可能性」は残るわけですから。そのものすごく小さい影響が観測されていないだけかもしれない。
――なるほど。
皆神先生 多くの人は、こういった問題を「あるか」「ないか」といった白黒問題として議論しようとしますが、それがどうも間違いを生む元凶じゃないかと思っているんです。
血液型性格分析を日常生活で判断材料として使いたいわけですから、「あるか」「ないか」というより、役に立つのかとか、実用に耐え得るのかといった視点から捉えるべきじゃないでしょうか?
今まで積み上げられてきた研究結果から判断して、なんらかの相関が万が一あったとしても、その影響はとても小さいことは間違いなさそうです。つまり一般の人が、他人を見分けたり分類できたりするほど血液型性格分析が実用として役に立つことはありえない、とは言えるでしょう。
もっとざっくり言えば「血液型による性格分析はあてにはならない」ということです。
――ありがとうございました。
当たるも八卦当たらぬも八卦
日本で血液型占いがはやったのは、諸外国に比べ人間を区別するための材料が少ないためという研究者もいます。諸外国には、人種や宗教の違いなど人を分類するための材料が数多くあります。日本ではそういったカテゴリーが少ないため、他人を評価する基準としての血液型占いはセンセーショナルだったのかもしれません。
血液型によって「あの人はこんな性格」と決めつけるのは良くないでしょう。その人を知るには、やはりコミュニケーションをしっかり取ることが大事ではないでしょうか。
*1 ただし、日本で最初に血液型と性格の関連性に着目した論文を書いたのは、小林榮(ドイツ留学で医学を学んだ原来復の弟子)。論文のタイトルは「血液ノ類続的構造ニ就テ」で、1916年(大正5年)7月に『医事新聞』954号に掲載されています。
*2 『血液型性格研究入門 血液型と性格は関係ないと言えるか』著:白佐俊憲・井口 拓自,有限会社川島書店,1993年5月10日第一刷発行
*3 「既報の研究」として以下のようなものが挙げられています(ほかにもあります)。
小川隆章の研究(1984)
詫摩武俊らの研究(1985)
藤沢敬一の研究(1985)
長谷川芳典の研究(1985・1987)
大村政男の研究(1986)
山崎賢治らの研究(1991)
(高橋モータース@dcp)
皆神龍太郎
疑似科学ウォッチャー。『と学会』運営委員。ASIOS会員。しばしば日本最強のデバンカーといわれる存在。『UFO学入門 伝説と真相』(楽工社)、『あなたの知らない都市伝説の真実:だまされるな! あのウワサの真相はこれだ! 』(学研パブリッシング)など著書多数。
⇒Twitter
https://twitter.com/debunkerjp
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