ある匂いを嗅いで、突然昔の記憶がよみがえったということはないでしょうか? このようなことが起こる理由は、「嗅覚」の特殊な情報伝達経路にあると考えられています。
嗅覚の情報処理は他の感覚とは違う!
人間の五感は、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚ですね。五感それぞれで感知する情報を使って人間は生きています。
この5つの感覚のうち、視覚・聴覚・触覚はそれぞれ光・音波・圧力を感知し「物理感覚」と呼ばれます。
一方の嗅覚・味覚は化学物質が鼻孔内・舌に触れることで感知され、そのため「化学感覚」と呼んで分けられています。
また、嗅覚の情報処理は他の感覚とは異なっています。
鼻腔内には匂いの基になる化学物質を感知する受容体があります。この受容体が化学物質を捉えると、その情報は「嗅球」という器官に送られます。
臭球は匂いの情報を脳に入力する働きをするのですが、脳の方では臭球から来た情報を過去の情報と照らし合わせてそれがどんな匂いなのかを認知します。
つまり、過去に記憶したデータベースとの照らし合わせが行われて始めて「何の匂いなのか」が判別できる仕組みなのです。
そのため、そもそも嗅球は「扁桃体(へんとうたい)」「海馬(かいば)」という記憶に関与する部位と結び付いています。
また、五感の中で唯一嗅覚だけが、視床を経由することなく脳の中枢部と直結しています。このような情報伝達経路のため、匂いは記憶と結び付きやすいのです。
実験によれば、匂いを嗅いで思い出す記憶は幼少期のものが多い傾向があります。
またfMRI(脳内の血流を視覚化することができる装置)を使った観測によって、匂いによって活性化する脳の部位は、幼少期の記憶なら「眼窩(がんか)前頭皮質」、大人になってからの記憶なら「左下前頭回」と分かっています。
「眼窩前頭皮質」は知覚と結び付いています。そのため、匂いによって幼少期の記憶を思い出すと、それに付随した「知覚」が鮮明によみがえると考えられるのです。
「香りが脳に与える影響」の実験
脳の老化による認知機能の低下は大きな問題です。嗅覚による刺激が認知機能を改善するという興味深い研究があります。
これは神保大樹博士(トリノ大学医学部客員教授)らチームの「Effect of aromatherapy on patients with Alzheimer’s disease.(アルツハイマー病患者におけるアロマテラピーの効果の検討)」という研究(2010年)です。
この研究によると、
と報告されています。また神保博士の研究によれば、「レモン、グレープフルーツ、レモングラスといった柑橘(かんきつ)系成分を嗅ぐと、前頭前野近傍が活性化されること」が示唆されています。
⇒論文:『Wiley Online Library』「Effect of aromatherapy on patients with Alzheimer’s disease」
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1479-8301.2009.00299.x
⇒参考文献:日本抗加齢医学会 専門医・指導士認定委員会『アンチエイジング医学の基礎と臨床 第3版』(株式会社メジカルビュー)2017年7月1日第3版第2刷発行,pp321-322
上記のような仕組みで匂いと記憶は結び付きやすいと考えられるのです。あなたは、匂いで昔のを思い出した経験がありますか? もしあるとしたらそれはどんな記憶でしたか?
(高橋モータース@dcp)
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