「過眠障害」は「過眠症」ともいわれ、夜十分寝ているはずなのに昼間に強い眠気に襲われ、急に眠ってしまうという症状が現れる疾患です。
過眠障害の一つに上げられるのですが、日常生活の場で突然眠りに落ちてしまうという病気があります。これが「ナルコレプシー」です。
有名な作家の色川武大(阿佐田哲也)先生はこのナルコレプシーでした。麻雀の途中に突然眠ってしまうこともしばしばだったそうです。
ナルコレプシーは以前は謎の病気とされましたが、日本の科学者によってその原因、メカニズムが判明しています。
「ナルコレプシー」の症状とは?
「ナルコレプシー」は、強い眠気に襲われて眠ってしまうという「睡眠発作」が突然起こる病気です。昼間に急に居眠りを始めるというのが典型的な症状です。
社会的に眠ってはいけないとされる場面でも眠ってしまいます。食事中や誰かと話しているときなども急に眠り出すのです。睡眠発作による睡眠時間は30分以内などの短いもので、すぐに覚醒しますが、1日のうちに何度も繰り返します。
また夜の睡眠中に何度も覚醒してしまうのです。
「カタプレキシー(情動脱力発作)」もナルコレプシーの典型症状の一つです。
カタプレキシーというのは、笑う、怒るなどで感情が高ぶると急に体の力が抜けて弛緩(しかん)状態になることです。突然ぐったりとへたり込んでしまうのです。
睡眠中に金縛りにあったり、異常なほどリアルな夢を見ることもナルコレプシーの症状です。リアルすぎるため夢よりも幻覚に近く、そのため「入眠時幻覚」といわれることもあります。
ナルコレプシーの原因は?
ナルコレプシーは、視床下部から分泌される「オレキシン」という脳内物質が欠乏することによって起こります。
オレキシンには「覚醒を維持する働き」があります。たとえるなら「覚醒」のスイッチがオンになって、そのオン状態を維持するのがオレキシンなのです。
しかし、神経細胞が壊れているなどしてオレキシンが分泌されなければ、オン状態(覚醒)を維持できません。これがナルコレプシーの患者の脳内で起こっていることです。
簡単にいうと「スイッチが不安定」なのです。
ですので、何らかの拍子に突然スイッチが切れて睡眠状態に陥ります。
突然レム睡眠になったり、ノンレム睡眠になったりするのです。ナルコレプシーの典型症状のカタプレキシーもレム睡眠時に起こる「脳-体の情報連絡の遮断」と同じことが起こっていると考えられます。
覚醒スイッチが落ちて、脳がレム睡眠時と同様に状況となり、脳と全身の情報遮断が起こり、体が弛緩してしまうというわけです。
リアルな夢・幻覚を見るのはまさにレム睡眠の特徴です。オレキシンの分泌がないと人間は覚醒を維持できない、その証明がまさにナルコレプシーという病気なのです。
しかし、オレキシンをつくる神経細胞が壊れていることがナルコレプシーの原因と分かってはいるのですが、なぜ後天的にそのような状態になるかはまだ不明です。何らかの免疫異常が引き起こすのではないかという指摘がされています。
ただし、オレキシンが欠乏する人もずっと寝続けるわけではありません。驚くべきことに、人間の体は恒常性を維持するために「ないものを補おうとする」のです。
柳沢正史博士(『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』機構長)と共に世界で初めてオレキシンを発見した櫻井武博士(同副機構長)によれば、
オレキシンは脳幹に向かって働きかけるので、そこの部分が変化して、勝手に発火できるようになったり、抑制系の入力を少なくしたりして、オレキシンなしでも起きていられるようにはなります。
ただ、ペダルのないピアノのようなものになるので、どうしても覚醒が途切れ途切れになってしまうのです。
※引用元は本稿末の櫻井先生の著書pp103-104
とのこと。人間の体はとてもよくできていますが、やはり欠損を完全にカバーすることは不可能なのですね。
ナルコレプシーはかつては謎の病気といわれました。しかし、柳沢博士、櫻井博士によるオレキシンの発見・その後の研究で原因が明らかになっています。マウス実験によって、オレキシンを脳内に補うことで症状を緩和できることも分かっています。
このように、睡眠-覚醒障害の解明は、脳の仕組みを明らかにすることでもあるのです。
⇒参考文献・引用元:櫻井武『最新の睡眠科学が証明する 必ず眠れるとっておきの秘訣!』(山と溪谷社)2017年06月01日発行
(高橋モータース@dcp)
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