「イワシの頭も信心から」という言葉があります。「心の持ちようで尊い存在など変わるものだ」という、若干の皮肉を込めた言い回しです。人間の信じる力というのは、時に奇妙な現象を見せることがあります。
「プラセボ効果」もその一つ。これは「プラシーボ効果」とも呼ばれ、全く薬理効果のないものを与えても、なぜか効能が出てしまう現象のことを指します。
今回は、この「プラセボ効果」について、しばしば日本最強のデバンカーと呼ばれる皆神龍太郎先生にお話を伺いました。
偽薬でも効く! なぜなのか?
――プラセボ効果について教えてください。
皆神先生 プラセボというとあまり聞かない単語ですが、これはラテン語の「私を喜ばせるだろう」という言葉に由来します。
患者に、薬理作用がない薬を与えていてもなぜか効能が出てしまうことがあって、これをプラセボ効果といいます。
「偽薬(ぎやく)効果」ともいわれますね。患者を喜ばせることを目的とした(本来効果のない)薬、「偽薬」が効能を発揮しますのでこの名があります。
――偽薬はもともと人体に影響のないものですよね?
皆神先生 はい。乳糖やデンプンなどですね。生理食塩水の場合もあります。
これらは本来、病気を治したりはできないものです。
ですが、例えば「非常に有効な薬だ」などと説明して投与されると、症状を改善したり、治癒したり、また副作用(吐き気など)を引き起こしたりすることがあるのです。効能といっても、いいことばかりではありません。
プラセボ効果は最大で30%ぐらいあるといわれています。また、特に鎮痛効果が大きいといわれます。
鎮痛効果は主観的なものですからね。しかし、主観的なものではない、検査結果などに影響を与えることもあるのです。
――なぜこんなことが起こるのでしょうか?
皆神先生 なぜプラセボ効果があるのか、について明確な結論が出ているわけではありませんが、「偽薬の暗示が脳内の鎮痛物質の放出を促す」「偽薬の暗示が自然治癒力を促進する」といった説明がされます。
人間の信じる力はスゴイものなのですよ。
ただし、気を付けていただきたいのは、プラセボ効果はあくまでもそれにすぎません。それが治療になるわけではないのです。
「実際に痛みがひくからいいじゃん」という意見もあるかもしれませんが、症状に対する自覚を単に麻痺させているだけという可能性も高いので、病気になったらきちんとお医者さんにかかりましょう。
「本当の効能」を調べたかったらダブルブラインドテストが必須!
――プラセボ効果を期待して、小麦粉を固めたものを飲ませたら「効いた!」なんてことにもなりますね。
皆神先生 ですから、製薬会社などでは、新薬開発のためにダブルブラインドテストという手法を用います。
実験対象となるグループを二つに分けて、片方には新薬を、もう片方には対照薬(偽薬のこともある)を投与するのです。
また、投与を行う実験者にも、それぞれにどんな薬を与えているかを教えません。こうしてプラセボ効果、また実験者によるバイアスを極力排して、その新薬の本当の効能を調べるのです。
逆にいえば、このような実験手法を用いなければ影響が出てしまうほど、プラセボ効果というものは大きなものなのです。繰り返しになりますが、人間の信じる力というのは本当にスゴイというわけです。
――ありがとうございました。
確かに「この薬は効く!」と言われて飲む方が、薬の効きもいいように思いませんか? 人間の信じる力は体調にまで変化をもたらすというわけです。
皆神龍太郎
疑似科学ウォッチャー。『と学会』運営委員。ASIOS会員。しばしば日本最強のデバンカーといわれる存在。『UFO学入門 伝説と真相』(楽工社)、『あなたの知らない都市伝説の真実:だまされるな! あのウワサの真相はこれだ! 』(学研パブリッシング)など著書多数。
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