「イグノーベル賞」という名前を聞いたことがある人もいるかと思います。ですが、このイグノーベル賞について、コンセプトや過去にどのような受賞されたものがあるのかという情報を追っかけている人は意外に少ないのではないでしょうか。
「イグノーベル賞」は「人々を笑わせ、考えさせてくれる研究」に対して与えられる、平らに言うと「ノーベル賞のパロディー」。ノーベル賞同様に様々な部門があり「裏ノーベル賞」とも呼ばれたりもしています。
「イグノーベル賞」の始まり
「イグノーベル賞」は、世界的に権威のある「ノーベル賞」のパロディーとして1991年に創設された賞です。
「イグ」は否定の接頭辞で、これを「ノーベル」に付けた言葉です。また「イグノーブル」という「不名誉な、恥ずべき」といった意味の言葉があり、それにも引っ掛けています。
イグノーベル賞は「人々を笑わせ、考えさせてくれる研究」という基準を重視して選考されます。ノーベル賞のパロディーではありますが、日本では基本的には名誉ある賞として受け入れられています。
イグノーベル賞にはノーベル賞と同じようにさまざまな分野の賞が設けられていますが、その中の「イグノーベル医学賞」の受賞リストから、特に面白い研究を3つピックアップします。
ジッパーに挟まれたペニスの緊急処理
男性特有のトラブルですが、トイレで用を足した後、ついうっかりズボンのジッパーにペニスを挟んでしまうことがあります。
ジェイムス・F・ノーラン、トーマス・J・スティルウェル、ジョン・P・サンズ・ジュニアの3名の医療従事者は、「ジッパーに挟まれたペニスの緊急処理に対して」という論文を発表しており、これがイグノーベル医学賞を受賞しています。
この論文は、このようなアクシデントが起こった際の応急処置についてまとめたものです。
処置の手順としては、まず挟まった局部に軟膏(こう)を塗り、医療用のニッパーのような器具でジッパーのスライダー(ジッパーを開閉する、つまみの付いたパーツ)を切断し、ペニスをリリースするとしています。
●受賞者
・ジェイムス・F・ノーラン
・トーマス・J・スティルウェル
・ジョン・P・サンズ・ジュニア
ガラガラヘビのかみ傷に対する電気ショック療法の失敗
これは1994年のイグノーベル医学賞で、「固い決心によって電気ショック療法を使用したこと」と「ガラガラヘビのかみ傷に対する電気ショック療法の失敗」が別々に受賞しています。
元アメリカ海兵隊員のX氏は、不幸にもペットのガラガラヘビにかまれてしまいました。
このような場合、一般的には血清を注射するのですが、X氏は自動車の点火プラグを唇に装着し、電気ショックでの解毒を試みたのです。
残念ながらこの治療は失敗しましたが、この勇気ある決断に対してイグノーベル医学賞が贈られました。
ダート、グスタファソンの2人の医師はX氏を治療し、この事例を論文にまとめました。この論文には十分な根拠があるとされ、両医師もイグノーベル医学賞を受賞したのです。
●受賞者
・リチャード・C・ダート
・リチャード・A・グスタファソン
・患者X(元アメリカ海兵隊員でペットのガラガラヘビにかまれた犠牲者)
検尿の際に患者がどのような容器を選ぶかについて、丹念に収集、分類、考察
健康診断のときなどに行われる検査の一つに検尿があります。一般的に医療機関で検尿をする際は紙コップを渡され、そこに尿を採りますね。
検尿キットを使って自宅で検尿をする場合も同様に、紙の容器に尿を採ってスポイトで採取します。
これはごく普通のことで、ほかの容器を使おうと考える人はほとんどいないでしょう。
しかし、容器を自分で自由に選べるとしたらどうでしょうか。
ノルウェーのアーヴィッド・ヴェイトル氏はたくさんの容器を用意し、実際に患者がどの容器を選ぶかというデータを丹念に収集し、結果を分類・考察しました。
なお、彼が持って来たのは、牛乳、アスピリン、コーラ、フルーツジュース、ウイスキー、インスタントコーヒー、ピーナッツバター、ハチミツ、ビール、トマトピューレ、ニトログリセリン、調味料、スキンクリームなどの容器でした。
●受賞者
・アーヴィッド・ヴェイトル
心臓移植手術を受けたマウスにオペラを聞かせた効果を評価
医学の世界では、マウスなどの動物を使った実験が行われています。これもそのような実験の一つです。
帝京大学の内山先生ら7人のチームは、心臓移植をしたマウスにオペラを聞かせる実験を行い、音楽がマウスにどのような影響を与えるかを調べました。
通常、心臓移植を行ったマウスは免疫制御をしないと体内で拒絶反応が起こり、7日程度で死んでしまいます。
実験では心臓移植を行った若い成体マウスを用意し、10種類のグループに分けて異なる音を聞かせました(何も聞かせないグループ、音楽ではない6つの異なる周波数を聞かせるグループもあります)。
この結果、ジュゼッペ・ヴェルディの『椿姫』を聞かせたマウスは、ほかの音楽を聞かせたマウス、何も聞かせなかったグループ、6つの異なる周波数を聞かせたマウスよりも長生きしました。
生存期間はなんと26.5日で、平均生存日数をはるかに超えたのです。
●受賞者
・内山雅照
・Xiangyuan Jin
・Qi Zhang
・平井敏仁
・天野篤
・場集田寿
・新見正則
日本人はイグノーベル賞の常連
イグノーベル賞には毎年5,000以上のエントリーがあり、その中から特にユニークな研究が選出されています。面白い雑学ネタの宝庫なので、今後の受賞者などもチェックしてみることをお勧めします。
ちなみに日本人はこの賞の常連で、2019年には「典型的な5歳児の1日あたりの総唾液量を推定」というテーマで、日本人チームがイグノーベル化学賞を受賞していたりもします。
2020年のイグノーベル賞の発表は09月17日を予定しています。いったいどのような面白くて考えさせられる研究が登場するのか、楽しみです。
(牧瀬ポンデリン@dcp)
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