「人間は普段、脳の10%しか使っていない」なんて話があります。時にこの「10%」が「30%」だったりしますが、「能力を全て解放すれば」人間はもっとスゴイことができる、といいたいわけです。
この説(都市伝説)は本当なのでしょうか?
そもそも「10%伝説」の出典はどこなのか
最初にタネを割ってしまいますが、この「10%伝説」はウソです。
しかし、「普段、人間は脳の10%しか使っていない」という話の出所がそもそも誰なのかというと、実はよく分かりません。心理学者のウィリアム・ジェームズ、物理学者のアルバート・アインシュタインが出所という説もありますが、はっきりしません。
ウィリアム・ジェームズには、
most of us do not meet our mental potential.
ほとんどの人は精神的な可能性を生かすことができない
という発言がありますが、「10%」といった具体的な数字を挙げて言及したかについては確認できません。
また、「人間は潜在能力の10%しか引き出せていない」という言葉がアインシュタインのものとされることがありますが、本当にアインシュタインが言ったかどうかは、実は不明です。
ただ、「自分が本気を出せばもっとスゴイことができる」と思えるせいでしょうか、この「10% myth」(10%伝説)が魅力的で、多くの人が信じているのは確かです。
神経学者のRichard E.Cytowic(リチャード・E・シトウィック)によれば「アメリカの一般人の2/3、科学教師のほぼ半数」がこの10%伝説を信じているのだそうです。
⇒データ出典:『TED-Ed』「What percentage of your brain do you use?」Richard E.Cytowic
https://ed.ted.com/lessons/what-percentage-of-your-brain-do-you-use-richard-e-cytowic
「脳は全体で思考する」ので10%伝説はウソです
この「10%伝説」が正しいのであれば、脳の9割は普段「遊休」(idle:アイドル)状態ということになります。
しかし全くそんなことはありません。
かつては、人間の脳の活動を計測する方法がありませんでしたが、現在では、「fMRI」(functional magnetic resonance imaging)で脳の血流を視覚化する(血流・酸素化の程度・神経活動には密接な関係があります)が可能になっています。
調べてみると、活動が低位か高位か、つまり活動の度合いに差はあるものの、人間の脳はどの部位も絶えず何らかの活動を行っているのです。
多くの研究が10%伝説を否定する結果を報告しています。
例えば、マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー教授の研究では、被験者に課題を与えたとき、脳の6つの区域においてどのように神経活動が活発になるか、108本の電極を用いて計測しました。
色の付いた点の集合が上下に移動するのですが、その色と動き、どちらに注目すべきかが指示され、被験者はそれを確認します。この実験では、脳全体で活発な神経活動が観測されました。
色に注意する領域、動きに注意する領域、それぞれあるのですが、それだけではなく、他の領域でも神経活動は活発になり、お互いに連絡を取り合っていることが分かりました。つまり、私たちの脳はさまざまな経路を用いて認知・思考活動を行っているのです。
「10%伝説」はなぜ信じられるのか
「10%伝説」が多くの人に信じられるのは、「本気を出せば自分もすごいことができるんだ」と思えるからではないでしょうか。しかし、現在では10%伝説は否定されています。
ですので、「自分が本気を出せば……」という妄想には根拠はありません。ですので、妄想を思い描いているヒマがあったら、本気を出して努力した方がいいというわけです。……ツライ話ではありますが。
(高橋モータース@dcp)
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