「うつ病」とは? 精神医学マニュアルでの診断基準は?

うつ病」はとてもつらい心の病で、日本でも患者数が多いといわれています。また、誰もがかかる可能性があります。肉体的な疾患と異なり、外からそれと分かる原因や重さが判断できないため、周りの人の無理解によって、余計に症状を重くする方もいらっしゃいます。

ですので、本人にとっては非常につらいのに周りからの助けを得にくいという、非常に厄介な病気でもあるのです。

今回は、一般的に「うつ病」といわれる精神疾患(mental disorder)の症状や診断基準をご紹介します。

うつ病の症状とは?

一般に「うつ病」といわれる精神疾患(mental disorder)の人には、以下のような症状が見られます。

ただし、幾つかの症状に当てはまったからといっても、うつ病だとは限りません。うつ病かどうかは、専門医の診断を受けなければ正確には分かりません。

●憂うつな気分
気分が優れない、やる気が出ない、悲しいなど、気持ちが沈んだ状態になります。このような状態を「抑うつ」といいます。

●物事に対する興味や喜びの感情の消失
今まで楽しかった趣味に興味がなくなったり、楽しい、うれしいという感情が弱くなります。性的な関心や欲求も低下します。

●食欲の減退or増加
一般的には食欲が低下しますが、逆に増加する場合もあります。また、それに伴って体重も増減します。

●不眠or過眠
睡眠障害を起こし、不眠になったり、逆に1日中寝てばかりいるような状態になることもあります。

●精神運動焦燥or制止
焦燥感が強くなり、体を動かしてしまいます。または、他の人が見ても分かるほどに動きが遅くなったりする場合もあります。

●疲労感、気力の減退
疲れやすくなり、また、気力が衰えて何もする気が起きなくなります。

●無価値観・罪責感
自分には生きる価値がないと考えるようになったり、罪の意識にさいなまれるようになります。

●思考力・集中力の低下
うつ病になると、思考力や集中力が低下します。これにより、デスクワークで今までよりも作業スピードが落ちることがあります。

●死について考えるようになる
うつ病の人は、自分には生きている価値がない、生きていてはいけないと考えることがあります。また、抑うつのつらさに耐えられず、死んだほうがましだと考えることもあります。

「うつ病の診断基準」とは?

上記のような症状が現れる「うつ病」ですが、精神医学的にはどう定義されているのでしょうか。『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』では、「うつ病」の診断基準は以下のようになっています。

「うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害」
診断基準

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている

これらの症状のうち少なくとも1つは(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。

注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。

(1)その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる。

(2)ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)

(3)
食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1カ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加
注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ。

(4)ほとんど毎日の不眠または過眠

(5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)

(6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退

(7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)

(8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の説明による、または他者によって観察される)。

(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。

注:基準A-Cにより抑うつエピソードが構成される。
注:重大な喪失(例:親しい者との死別、経済的破綻、災害による損失、重篤な医学的疾患・障害)への反応は、基準Aに記載したような強い悲しみ、喪失の反芻(はんすう)、不眠、食欲不振、体重減少を含むことがあり、抑うつエピソードに類似している場合がある。これらの症状は、喪失に際し生じることは理解可能で、適切なものであるかもしれないが、重大な喪失に対する正常の反応に加えて、抑うつエピソードの存在も入念に検討すべきである。その決定には、喪失についてどのように苦痛を表現するかという点に関して、各個人の生活史や文化的規範に基づいて、臨床的な判断を実行することが不可欠である※。

D.抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または他の特定および特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群によってはうまく説明されない。

E.躁病(そうびょう)エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。
注:躁病様または軽躁病様のエピソードすべてが物質誘発性のものである場合、または他の医学的疾患の生理学的作用に起因するものである場合は、この除外は適応されない。

<<「コード記載および記録の手順」以下は引用を省略します>>

悲嘆を抑うつエピソードから鑑別する際には、悲嘆では主要な感情が空虚感と喪失感であるのに対して、抑うつエピソードでは持続的な抑うつ気分、および幸福や喜びを期待する能力の喪失であることを考慮することが有用である。

悲嘆における不快気分は、数日-数週間にわたる経過の中で弱まりながらも、いわゆる“悲嘆の苦痛”(pangs of grief)として、波のように繰り返し生じる傾向がある。その悲嘆の波は、故人についての考えまたは故人を思い出させるものと関連する傾向がある。

抑うつエピソードにおける抑うつ気分はより持続的であり、特定の考えや関心事に結び付いていない。悲嘆による苦痛には肯定的な情動やユーモアが伴っていることもあるが、それは、抑うつエピソードに特徴的である広範な不幸やみじめさには普通はみられない特徴である。

悲嘆に関連する思考内容は、一般的には、故人についての考えや思い出への没頭を特徴としており、抑うつエピソードにおける自己批判的または悲観的な反復想起とは異なる。悲嘆では自己評価は一般的には保たれているのに対して、抑うつエピソードでは無価値観と自己嫌悪が一般的である。

悲嘆において自己批判的な思考が存在する場合、それは典型的には故人と向き合ってこなかったという思いを伴っている(例:頻繁に会いに行かなかった、どれほど愛していたかを伝えなかった)。

残されたものが死や死ぬことについて考える場合、一般的には故人に焦点が当てられ、故人と“結び付く”ことに関する考えであり、一方、抑うつエピソードにおける死についての考えは、無価値観や生きるに値しないという考えのため、または抑うつの苦痛に耐えきれないために、自分の命を終わらせることに焦点が当てられている。

⇒引用元:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』P.160-162「うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害」

長々と診断基準を引用しましたが、(A)については「ほとんど毎日の」などの言葉が付いているのを見逃さないでください。たまにそのような状態になるのは誰にでもあることです。

また、このように精神医学的な診断基準をご紹介しましたが、自分で自分をそうだと思い込まないことです。自己診断はいけません。必ず評判の良い専門医にかかり、判断を仰ぐようにしてください。

(松田セメント@dcp)

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