最近はUFOあまり飛ばなくなったようで、TVでUFOを扱う特番などもとんと見かけなくなりました。
昭和の昔には、子供も盛んにUFOを目撃したものですが……(笑)。しかし、今なおUFO・エイリアンがバリバリ活躍している地域があるのです。
「アメリカ」です。アメリカには「エイリアンにさらわれた」と主張する人が、現在もたくさんいるのをご存じでしょうか?
アメリカ人の1%は宇宙人にさらわれた経験がある?
エイリアンにさらわれることを「アブダクション(abduction)」、さらわれた人を「アブダクティー(abductee)」といいます。
アメリカのテンプル大学で6,000人に聞き取り調査を行ったところ、その1%がアブダクティーだと分かったというのです。アメリカの人口が約3億7,000万人ですので、「約370万人のアメリカ人がエイリアンにさらわれたことがある」と推計しています。
370万人はいくらなんでも多すぎですね。しかも、アメリカ以外の国では、アブダクティーがこれほど多いと推計できるようなデータはありません。アメリカでだけ「宇宙人にさらわれたことがある!」と言う人が増加しているのです。
「アブダクション」の経験を判定するテストとは?
上記のアブダクティーかどうかを判断する聞き取り調査のテスト項目は、以下のようなもので、幾つかに当てはまったらアブダクティーと判断するという乱暴さでした。
●Seen a ghost?
(幽霊を見たことはありますか?)
● Felt as if you left your body?
(自分の体から遊離したように感じましたか?)
●Seen a UFO?
(UFOを見たことはありますか?)
●Had vivid dreams about UFOs?
(UFOについて鮮明な夢を見たことはありますか?)
●Awakened paralyzed with a sense of a strange person or presence or something else in the room?
(体がまひして、誰か、何かが部屋の中に存在すると感じましたか?)
●Had a feeling of actually flying through the air not knowing why or how?
(なぜ、どうやってか分からないが、空中を浮遊しているような感じがしたことはありますか?)
●Experienced a period of time of an hour or more, apparently lost, not remembering why or where you had been?
(1時間、あるいはもっとの間、どこで何をしていたのか分からないという経験はありますか?)
●Seen unusual and unexplained lights or balls of light in a room?
(通常ではない、説明のつかない光や光の玉を部屋の中で見たことはありますか?)
●Found puzzling scars on your body with no knowledge of how/where you received them?
(どのようにして付いたか、どこで付いたか、自分でも説明できない傷があるのを見つけたことはありますか?)
●Seen, either as a child or adult, a terrifying figure――which might have been a monster, a witch, a devil, or some other evil figure――in your bedroom or closet or somewhere else?
(あなたの寝室、クロゼット、あるいは他の場所で恐ろしいもの――たとえば、モンスター、魔女、悪魔、何か邪悪なものなど――を見たことはありますか?)
日本人がこのような質問を見ると、「金縛り」(医学的には「睡眠麻痺(まひ)」と呼びます)のときにどのような状態だったのかを調べているのでは、と思うかもしれませんね。
「宇宙人による誘拐(アブダクション)」話の震源地は!?
そもそも6,000人を調べて1%の「60人」がアブダクティーと想定できる、という段階で異常な数字です。なぜアメリカ人はこれほど「宇宙人にさらわれた」と思うのでしょうか?
その根っこには「UFOフォークロア」がそもそもアメリカ発のものであること、アブダクションを語るUFO神話があること、ハリウッド映画の影響、といったものがあると考えられます。
そのような土壌の上に、1994年にジョン・E・マック(John Edward Mack)教授という「スター」が登場します。
『アブダクション―宇宙に連れ去られた13人』という本を刊行し、アメリカにはエイリアンに誘拐された人が多く存在する! と述べたのです。この本がアメリカで大ヒットしました。
ジョン・E・マックという人は、ハーバード・メディカルスクールで50年近く教壇に立ち、ケンブリッジ病院(マサチューセッツ州ケンブリッジ)の精神医学部門の創設者。いかにもインテリな経歴※の持ち主だったので、この著作は大きな衝撃を与えました。
※ジョン・E・マックは「アラビアのロレンス」の伝記『A Prince of Our Disorder: The Life of T.E. Lawrence』(1976年)を書いた人でもあります。この著作によってピューリッツァー賞を受賞しています。
スター研究者はまったく科学的ではなかった!
ハーバード・メディカルスクールではマック教授の研究を調査するための特別委員会を設けたほどです。この特別委員会は「研究が科学的に行われるために」という指針だったのですが、それは全くマック教授の研究には反映されませんでした。
というのは、「UFOにさらわれたことがある」と思う人を集めて催眠術をかけ、体験を思い出させるというのが研究の中身だったからです。
催眠によって患者が「思い出した」とする記憶を、教授は「事実」と信じました。このような話を調査する際には、懐疑的であるべきでしょうが、そのような態度は全く取らなかったのです。
マック教授は自分の研究を、
「西洋の合理主義的な科学の伝統とは、とにかく相容れないものなのだ」
と語っています。つまり科学的な研究ではないと本人も認めているわけです。結局のところ、「エイリアンにさらわれた」という話は、本人がそう主張しているだけで当然裏付けが取れません。
驚くべきことに、マック教授の著作を読んで「私も同じような体験をした」「私も実はUFOにさらわれていた」と、自らがアブダクティーであることを「思い出す」人までが現れるようになったのです。
なぜアメリカ人は宇宙人にさらわれたがるのか?
こうなると「アメリカ人はエイリアンにさらわれたがっている」とすら思えるのではないでしょうか。
ハーバード大学のスーザン・A・クランシー心理学教授は、アブダクティーの心理について調査を行い、『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』(原題:ABDUCTED:How People Come to Believe They were Kidnapped by Aliens)という著作にまとめました。
同著によれば、クランシー教授がアブダクティーに、
「ちょっとおもしろいのですが、睡眠麻痺の体験とエイリアンに遭遇した体験とは、多くの共通点があるんですよ。(中略)あなたが体験したことは、睡眠麻痺のせいだった可能性のほうがずっと大きいとは思いませんか?」
と、より科学的と思える回答を与えようとすると、
「思わないわ!」
と怒り出してインタビューを打ち切り、帰ってしまうのです。また、このような反応は多くのアブダクティーに共通します。
彼らは「(アブダクションで)ひどい目に遭った」と感じながら、その非日常的な体験を大事にしており、これを傷つけられたくない(科学的に説明のつくありふれたこと・つまらないことと思われたくない)という、一見矛盾した心理状態になるのです。
クランシー教授は同著の最終章で、
(前略)
アブダクティーの研究から見えてきたいちばんのポイントは、わたしたちの多くは神のような存在とのコンタクトを求めていて、エイリアンは、科学と宗教との矛盾に折り合いをつける方法なのだということだ。わたしは、ユングの「地球外生物は科学技術の天使である」という言葉に賛成する。アブダクションを信じることによって得られるものは、世界じゅうの多くの人たちが宗教から得ているものとおなじであるのは明らかだ。
引用元:スーザン・A・クランシー『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』(株式会社早川書房),2006年8月31日発行,p.78,pp222-223
(中略)
わたしたちは、科学や技術が幅をきかせ、伝統的な宗教が批判される時代に生きている。天使や神に宇宙服を着せ、エイリアンとして登場させたら納得がいくのではないだろうか?
(後略)
と述べています。
いかがだったでしょうか? アメリカ人が「自分は宇宙人にさらわれた。UFOに拉致された」と信じたがるのには、合衆国に独特の事情があるのです。合衆国では、UFO・エイリアンは一種の神話であり、神様の代わりをしているのかもしれないのです。これは非常に興味深い点だといえるでしょう。(高橋モータース@dcp)
コメント