人間に備わった「恋愛用のプログラム」が「あなた」を動かしている!

人間の感情には根拠がない、恋愛は分からないから面白い。そういう風に考える人もいらっしゃるでしょう。 恋愛や結婚の相手を人はどのように選んでいるのか? 高学歴・高収入・高身長? それともイケメンに限る?

科学的根拠と統計に基づいて脳がどのように恋愛という情報を処理しているか分析をしてみたところ、非常に面白いことが分かっています。あなたが自覚しなくても、選ばれる人には「根拠」が確かにあるのです。

今回は、神経科学者、心理学者などが明らかにしつつある、恋愛に関わる脳の仕組みについてご紹介します。

なぜ「この人だ!」と思うのか?

人は恋愛対象や結婚対象となるパートナーをどのようにして選別しているのでしょうか? なぜ好ましい人と好ましくない人、魅力的な人とそうでない人に分けることができるのでしょうか?

生物は交配相手を獲得して、交配し、自分の子孫・遺伝子を残すために生きています。そのための仕組みがあらかじめ備えられているのです。つまり異性を魅力的だと感じるのは、より生殖に適したパートナーを獲得するための「識別用プログラム」によるものと考えられます。

人間は思春期を迎える(つまり生殖能力を獲得する)までは、男性、女性とも体格・筋肉の付き方・肌などの外見はほとんど変わりません。しかし生殖能力を獲得すると、男性、女性の顔・体形には見た目の大きな差異が生まれます。

・顔
女性では唇がふっくらしてくる
男性では下顎が突き出る・鼻が大きくなる・顎骨ががっしりする

・体形
女性では乳房が膨らみ、尻が大きくなる(それによってウエストのくびれができる)
男性では筋肉が成長、広い肩になる

女性の場合は「ふっくらとした唇・発達した乳房・くびれたウエスト・丸い尻」が「私はエストロゲンの分泌が盛んで生殖に適している」と、男性の場合は「がっしりした顎・広い肩・がっしりした筋肉」が「私はテストステロンの分泌が盛んで生殖に適している」と主張し、それが異性にとっては魅力的に見えるのです。

つまり、形状が機能をアピールするわけです。

このような顔・体形の差を認知することで、その異性を魅力的と感じるようになっています。言い換えれば、そのような顔・体形が魅力的と思えるようにプログラムされているわけです。

そのプログラムの一つの例として、以下のような研究が挙げられます。

男性が魅力的だと思う「女性のウエストとヒップの比率」

男性が特に魅力的だと思う「女性のウエストとヒップの比率」は、非常に狭い範囲に収まることが、シン(Singh)博士の「Adaptive significance of female physical attractiveness: role of waist-to-hip ratio.(女性の身体的魅力の適応的意義:ウエストとヒップの比の役割)」という研究で調べられています。

それによれば、男性はWHR(Waist to Hip Ratio:ウエストヒップ比)の低い女性を好む傾向にあり、いわゆる「ウエストのくびれ」が男性にアピールするものであることを証明しています。

WHR、ウエストヒップ比は、ウエスト(cm)÷ヒップ(cm)の計算式で求められます。

また、理想的な比率は「0.67から0.8の間」で、米『プレイボーイ』誌に登場するグラビアクイーンの体重は時代によって変化しますが、WHRはほぼ「0.7」で変化していません。

「この範囲(0.67-0.8の間のこと:筆者注)に入る比率の女性は男性に魅力的だと判定されるだけでなく、健康で、ユーモラスで、知的だと思われる」

「もっと一般的に、ウエストがこの範囲より細い女性は攻撃的で野心的と見られるが、太い女性は親切で献身的と見られる」と補足しています(記事末参考文献より)。

私たちの脳はWHRのような小さな手がかりを認知して、そこから得られた情報を基に「自分にとって魅力的か、そうでないか」を判断しているのです。

その判断は一種のサブルーチンプログラムとして自動的に働いているため、私たちは意識してそれにアクセスすることはできません。なぜなら、そういったサブルーチンは進化の過程で獲得されたもので、脳に焼き付けられているからです。

女性の好む男性の容貌は1カ月の間に変わる!

女性もまた脳に焼き付けられたサブルーチンによって男性を識別していることが分かっています。

その一例として、女性が好ましいと思う男性の容貌が1カ月の間に変化する、という実験結果があるのです。

これは、ペントン-フォーク(I.S Penton-Voak)博士とペレット(D.I Perrett)博士の「Female preference for male faces changes cyclically.(女性の好む男性の顔は周期的に変化する)」という論文で、

「排卵しているときのほうがより男っぽい容貌の男性を好む」

という結果になっています。妊娠しやすい時期には、「テストステロンの分泌が盛んな容貌をしている男性」のほうを好ましく思うようにサブルーチンが働いているのです。

さらにこんな研究もあります。

女性は「妊娠能力が高いとき」に一番美しいと思われる!

ロバーツ(S.C.Roberts)博士らの研究「Female facial attractiveness increases during the fertile phase of the menstrual cycle.(女性の顔の魅力は月経周期の妊娠能力の高い時期に増大する)」では、月経周期のサイクルに合わせて女性の顔を撮影し、その魅力を判定してもらうという実験を行いました。

その結果、黄体期に撮った写真よりも、妊娠能力が最も高くなる時期に撮影された写真が高く評価されることが分かりました。つまり、同じ女性でも生殖機能が最も高まる時期に一番美しいと思われるわけです。

この実験は、人間が生殖能力の高さを示す「見た目の何かちょっとした変化」を認知していることを示しています。

それが何かはまだ分っていませんが、人間にその変化を感じ取れる視覚系の認知能力が備わっていることは確かです。また、それを魅力的と感じさせるサブルーチンが自動的に走っているわけです。

視覚系認知の研究では以下のようなものもあります。

「チラ見」した人の方を美しいと感じる!

今横を通り過ぎた人は美人じゃなかったか?」と思った経験は男性なら誰でもあるでしょう。

ボーン(Don A.Vaughn)博士とイーグルマン(David M.Eagleman)博士の「Faces briefly glimpsed more Attractive.(ちらりと見かけた人のほうを美しく感じる)」という論文では、被験者に男性と女性の顔写真をちらっと見せて、その魅力を評価してもらうという実験を行っています。

被験者は後でまたその写真をじっくり見て評価します。この際には評価の時間制限はありません。

結果は驚くべきものでした。

同じ人物の写真でも、チラ見のほうが高い評価を得たのです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか? イーグルマン博士は、

言い換えると、誰かが角を曲がったところ、あるいは車でさっと通りすぎたところをちらりと見かけたとき、あなたの知覚システムはその人が本来のあなたの評価よりも美しいと告げるのだ。
答えのかなめは生殖の必要性にある。あなたがちらりと見た魅力的でない人を美しいと信じた場合、二度見をすればまちがいをただすことができる――それほど高い代償ではない。
一方、あなたが魅力的な相手を魅力的でないとまちがえた場合、バラ色かもしれない遺伝子の将来に「さよなら」をいう恐れがある。
したがって、知覚系にしてみれば、ちらりと見た人が魅力的だという作り話を提供するのは当然のことだ。

と考察しています(引用元は記事末)。

また、この二度見のシステムは女性よりも男性に強く現れることが分かっています。これは男性のほうが、女性よりも魅力的な異性を識別するのに視覚系に頼ることが多いからと考えられています。

恋愛は「パートナー獲得」のために報酬系の回路が起こしている!

恋愛の目的は「交配のためのパートナーを獲得するため」にあると考えられます。自然人類学のフィッシャー(Helen Fisher:ヘレン・フィッシャー)博士は、この交配パートナーを獲得するための心理を分析するためにMRIを使いました。

熱愛中の人の脳をMRIで調べてみると、脳底付近にある「腹側被蓋野」と呼ばれる場所でA10細胞群が活発になっていることが分かりました。このA10細胞群は脳内麻薬の一種ともいわれる「ドーパミン」を作る働きがあります。

ドーパミンは神経伝達物質の一つで、これが分泌されると人は「多幸感」「快感」を感じます。つまり恋愛中の幸せな感じは、脳のA10細胞群が活性化し、ドーパミンが分泌されることで起こっているのです。

ちなみに覚醒剤、コカインなどの多幸感をもたらす物資は、ドーパミンの産生を活発にすることが分かっています。

また、ドーパミンは人間の脳の「報酬系」に働く脳内物質でもあります。報酬系というのは、「欲求が満たされたとき」「欲求が満たされることが分かったとき」に働く回路のことです。

たとえば「受験に合格した!」「就活が決まった!」などのときに人間は「うれしさ」「快感」を感じますね。

これは、人間の脳内で「課題を果たしたこと」「壁を乗り越えたこと」に対して「快感を与えるための物質」が分泌する回路が備わっているからこそ起こるのです。

報酬系の回路の「快感を味わせるための物質」の一つが「ドーパミン」というわけです。ご褒美がドーパミンによる「心地良い感情」といってもいいでしょう。

この報酬系の回路は非常に重要で、人間のモチベーションに関わっています。この回路は「何かを獲得しようとして行動しているとき」にも活性化することが分かっています。

つまり、困難に立ち向かう勇気、何かを獲得しようという気持ちは、報酬系の回路があればこそ持つことができるのです。

フィッシャー博士は、

「脳回路は報酬のために活動し、強いエネルギー、集中力、動機、リスクを冒す気力も出てきます。それはなぜかと言うと、人生最大の報酬(交配のパートナー:筆者注)を得るためです」

⇒データ出典:『TED2008』TALKS
https://www.ted.com/talks/helen_fisher_studies_the_brain_in_love?language=ja

と語っています。

さらに興味深いのは報酬系の回路は「目的を果たせなかったとき」「獲得できなかったとき」にそれを渇望するように強く働くことです。

これが「片思いの方が想いが強くなる」「振られるとより強く相手を思うようになる」「邪魔された方が恋は燃え上がる」理由です。

それが何が何でも達成されるように脳の回路が仕向けているのです。

逃した魚は大きい」という言葉はまさに脳の回路の真実を言い当てています。「あれは大きな魚だった」と認知させるサブルーチンが働き、それを取り返させようとしているのです。

今回ご紹介したのは、恋愛にまつわる研究のほんの一部です。たとえば「人間でもパートナーの選択にいわゆるフェロモンが大きく関与している可能性がある」「生理周期による女性の外観の変化」などなど、ほかにも多くの興味深い研究があります。

あなたは、なぜその人を恋愛対象に選んだのでしょうか? その選択の背景には、あなたの意識に上らない、進化の過程で受け継がれてきたサブルーチンが影響していると考えられるのです。

⇒参考文献・引用元:『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』(原題『INCOGNITO The Secret Lives of the Brain』)著:デイヴィット・イーグルマン/訳:大田直子,株式会社早川書房,2017年3月25日二刷

(高橋モータース@dcp)

コメント

タイトルとURLをコピーしました