人間はなぜ眠るのか? 「脳を持つ生物」で睡眠を取らないものはない

「睡眠」は大きな謎である

ヒトが眠る理由」について『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』(略称「IIIS」)の機構長である柳沢正史博士にお話を伺いました。

柳沢博士は、副機構長である櫻井武博士と共に、覚醒を維持する脳内物質「オレキシン」を世界で初めて発見するなど、睡眠研究における第一人者です。

――なぜヒトには睡眠が必要なのでしょうか?

柳沢博士 脳のある生物で眠らないものはありません。つまり「脳」と「睡眠」は切っても切れない関係にあるわけです。ですが、なぜ眠るのかという根本的な問題に対する回答はまだ得られていません。大きな謎です。

――たとえば、体や脳を休息させるために眠るといった説明がされますが?

柳沢博士 覚醒時と睡眠時の脳内のエネルギー代謝率を比較すると、睡眠時に10%減る程度で、ほとんど変わりません。

脳は、腎臓や肝臓など内臓臓器と同様に24時間働き続けているというのが本当のところなので、睡眠が脳を休息させるために必要というのは説明にならないのです。

――では睡眠とはどのような状態なのでしょうか?

柳沢博士 コンピューターに例えて、

スイッチは入っているけれどもオフライン状態で、デフラグなどの何かメンテを行っているのが睡眠である

と捉えるのが一番当たっていると思います。CPU自体は動いているのだけれども覚醒時とは違うことをしている。でも、それが具体的に何なのかはまだ分かっていないのです。

例えば、睡眠中に記憶を整理しているといわれます。それは恐らく正しいのですが、詳細はまだ明らかになっていません。

――睡眠についてはまだ大きな謎なのですね。

柳沢博士 睡眠についての2大クエスチョンは、

  1. 脳を持つ生物はなぜ眠らなければならないのか
  2. 「眠気」のメカニズムはどうなっているのか

です。「1」については根源的な謎ですが、「2」は専門用語では「恒常性制御」といいます。長く覚醒していると、なんらかの仕組みで「睡眠-覚醒の制御システム」へのフィードバックが働いて睡眠を促すようになっています。

簡単に言うと、起きているうちに睡眠への誘いがだんだんたまっていって、それが眠りにつかせる。「ししおどし」のようなものですね。

少しずつ水がたまっていって、ある一定の量になり睡眠をとるとカコーンと流され眠気がリセットされる。

――その例えは分かりやすいですね。

柳沢博士 そのたまっていく水に当たるものがなんなのかが全く分かっていません。

たまっていくものは物質なのか、(ニューロンの)状態なのか、細胞内のシグナル伝達系なのか、またそれが脳のどこで行われているのか(そもそも局在・遍在も含めて)分からない。

また、その累積的にたまる「何か」をカウントする仕組みもあるはずです。近過去の覚醒量を、しかも累積的に測る「何かカウンターのようなもの」があるはずなのです。

――なるほど。

柳沢博士 もっと分かりやすく言えば、「眠気」といわれるものの「本体」が何なのかが分からないということです。

また、「睡眠-覚醒の制御システム」については、

  • 恒常性制御
  • 体内時計による制御

のふたつについて考えなければいけません。「恒常性制御」システムは睡眠の「量」と「質」をコントロールしています。一方の「体内時計による制御」システムは、概日リズム(サーカディアンリズム)に従って、「いつ眠るのか」というタイミングをコントロールしています。

このような「睡眠-覚醒の制御システム」を明らかにすることが、睡眠の謎を解き明かすために必要なのです。

――ありがとうございました。


脳を持つ生物は必ず睡眠します。1日のうち、わずか20分ほどしか眠らないというキリンのように睡眠時間が極端に短い動物もいます。

しかし、睡眠せずに生息し続けることが可能な生物は存在しません。それほどまでに、すべての生物に共通して必要な睡眠ですが「なぜ眠るのか」という大きな疑問についての回答はまだ得られていません。

私たちには睡眠量を一定に保つための仕組みが備わっており、その睡眠量が満たされないと心身に不調を来してしまいます

皆さんも、自分に必要な睡眠量を確保できるような生活習慣を身に付けるようにしてください。

局在は「どこか一部の場所にあること」、遍在は「あまねくあること・広くあちこちにあること」という意味です。この場合は、脳のどこかの部位が担当しているのか、あるいは脳全体・複数の部位が担当しているのか、すらも分かっていないということです。

(高橋モータース@dcp)

柳沢正史プロフィール
『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』機構長。
1960年東京生まれ。筑波大学医学専門学群・大学院医学研究科博士課程修了。31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授とハワードヒューズ医学研究所研究員を24年にわたって併任。2010年に内閣府最先端研究開発支援プログラムに採択されたことを受けて、筑波大学に研究室を開設。2012年より文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム『国際統合睡眠医科学研究機構』の機構長。1998年、その欠乏がナルコレプシーの原因となる脳内物質「オレキシン」を発見。2017年度の朝日賞を受賞。慶應医学賞(2018年)、高峰記念第一三共賞、茨城県民栄誉賞、文化功労者(2019年)など。趣味はフルート演奏。

柳沢 正史 | メンバー紹介 | IIIS 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構
睡眠覚醒機構の解明を目指し、基礎から臨床までを網羅する世界トップレベルの睡眠医科学研究拠点。国際統合睡眠医科学研究機構

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